翻訳屋佐吉の生活と意見関東を離れ、北陸に古民家を購入したとある翻訳屋の田舎暮らし事始めと日々のつれづれ。 

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翻訳屋として、技術屋として

2013/07/01[月]《 翻訳屋稼業 》
 先週の案件にもまた閉口させられた。内容はとある精密機器の取説の英訳。特急でトータル20数万字(原稿ベース)とのことで、むろん一人でこなせるわけはなく、数人の翻訳者で分担して、うち約5万字(ただし、Trados仕事で、新規・ほぼ新規はそのうちの半分ほど)を佐吉が受け持った。

 今回はクライアントからTM(翻訳メモリ)が支給されていた。ところが、こいつがとんでもない代物だった。訳例が実に8万ペアも登録されていて、重いったらありゃしない。ちょっと何かを検索しようとすると、そのたびに数十秒待たされる。が、それはまだいい。問題は中身だ。ゴチャゴチャもたもたした訳が多く、読んでいるとイライラしてくる。スタイルにもばらつきが目立ち、綴りや文法上の誤りさえ散見する。訳語もちっとも統一されておらず、中には、この文書においてかなり重きを成す言葉でありながら、訳語が8種類もある用語さえ見られる。これまでに、レベルが標準以下の人を含め、かなりの数の翻訳者がこれに関わっていることは間違いない。そんな雑多な訳を、ろくにチェックも整理もせず全部ぶち込んだのだろう。こういうのを「味噌も糞も一緒」と云う。

 だが、しかし、本当の悪夢はここからだ。

 原稿は多軸機械の操作法を説明したもので、それゆえ、「X軸の移動」、「Y軸の可動範囲」、「R軸の回転」といった表現が頻出する。というより、それらを記述するのがこの文書の骨子だ。だが、これらの云い方は(この文書においては)いずれも適切でない。技術屋さんが書いた文章にしばしば見られるいい加減な日本語の典型で、本来なら、それぞれ「X軸方向の移動(movement in the X (-axis) direction)」、「Y軸方向の可動範囲(movable range in the Y (-axis) direction)」、「R軸廻りの回転(rotation around the R-axis)」としなければならない。原稿をきちんと読めば、そのことはすぐにわかる。

 おそらく現場では、こんな文書でも、予備知識のある人間が現物を目の前にして読めば、その真意を汲み取ることはできるだろうし、それで問題はないのかもしれない。実際、佐吉がメーカーにいた頃に目にした文書もそんなのばかりだった。しかし、こと翻訳に際しては、おかしな云い方をおかしなまま訳すわけにはいかない。そんなことをすれば必ずどこかでほころびが生じる。

 ところが、である。支給されたTMを見ると、ほとんどの訳例において、というより、佐吉が見た範囲ではすべて、それらが字面どおり(movement of the X-axis, movable range of the Y-axis, rotation of the R-axis)に訳されていた。これでは軸そのものが動いたり回ったりという摩訶不思議なことになってしまう。佐吉は目も眩むような絶望感を覚えた。

 もちろん、根本的に間違っているのは原文である。とは云え、技術文書の日英翻訳においては、そんなことは日常茶飯事だ。それをいちいちトラップに引っ掛かり、字面どおり訳していたのでは技術翻訳者は務まらない。それが、(おそらく)相当な数の翻訳者が関わっていながら、原文の真意を汲み取っている者が一人もいないとは。だいたい訳していておかしいと思わなかったのだろうか、彼らは。誰一人として……。

 普段、翻訳者として、原稿に対して「ちゃんと意味が通るように書けよ、ボケ」と思うことは多々ある。が、一方で、佐吉は元技術屋でもある。その佐吉の中の技術屋の部分が「金とって訳してんなら、これくらいわかれよ」と悪態をつく。自分のことを100パーセント棚に上げて云うが、世の技術文書がしばしばとんでもない日本語(もどき)で書かれているのと同様、世界には、思わず目を疑うようないい加減な訳文が案外普通に流通している。そのことに思いを致すと、なんとも暗澹たる気持ちになる佐吉なのであった。
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2013/07/01 23:58 | Comment (0) | Site Map | Home | Page Top
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