翻訳屋佐吉の生活と意見関東を離れ、北陸に古民家を購入したとある翻訳屋の田舎暮らし事始めと日々のつれづれ。 

この記事に含まれるタグ :
歌舞伎  自分語り  

スポンサーサイト

--/--/--[--]《 スポンサー広告 》
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

http://countrytranslator.blog.fc2.com/?overture" target="_new edit

--/--/-- --:-- | Comment (-) | Site Map | Home | Page Top

歌舞伎座は遠きにありて(自分語り注意)

2013/04/02[火]《 日記 》
 皆さんご承知のとおり、今日、新しくなった歌舞伎座が開場した。佐吉は、遠く富山の高岡から、TVのニュースやワイドショーを通じてその様子を眺めていた。

 佐吉はかつて足繁く歌舞伎座に通っていた。独身の頃の話だ。正確な年は覚えていないが、はじめて歌舞伎を観たのは今から20年ほど前のことで、そのときの演目が『江戸絵両国八景』、通称『荒川の佐吉』。そう、「佐吉」というハンドルネームはそこから取ったものだ。

 『荒川の佐吉』は、数奇な運命に翻弄され、苦悩し、懊悩しながらも、不器用に自分の生き方を貫いたひとりの男の姿を描いた作品で、片岡孝夫(現仁左衛門)演じる佐吉は、男が見ても惚れ惚れするほどカッコよかった。とりわけラストシーン。桜吹雪の舞い散る中、何もかも捨てて江戸を離れてゆく孝夫の佐吉のカッコよさと云ったらなかった。決してハッピーエンドではないが、なんとも云いようのない、清々しい侠気(おとこぎ)の漂う幕切れだった。当時20歳台の(翻訳屋)佐吉はいっぺんで打ちのめされた。「男はこうありたいものだ」と思った。そして、そのときから(翻訳屋)佐吉の歌舞伎座通いが始まった。

 それから何年かは、歌舞伎座の昼の部、夜の部を毎月欠かさず観た。特に気に入った芝居は二度三度と観た。歌舞伎座だけでなく、新橋演舞場や国立劇場、明治座、浅草公会堂にも足を運んだ。観る芝居観る芝居が面白くて仕方がなかった。「知らざあ云って聞かせやしょう」、「こいつぁ春から縁起がいいわえ」、「一人殺すも十人殺すも、捕られる首ぁたったのひとつ」、「死んだと思ったお富たぁ、お釈迦さまでも気がつくめえ」……。名台詞と呼ばれるものはほとんど空で云えた。一方で、歌舞伎そのものについてあれこれ知ることも楽しかった。歌舞伎の世界は面白いネタの宝庫で、知れば知るほど、ことさら興味を掻き立てられた。「教養」とか「伝統芸能」とかいった意識とはまったく関係なく、ただ単純に面白かった。ご多分に漏れず、周りの連中に薀蓄を傾けては煙たがられた。気がつけば、芝居に関する本が佐吉の書棚のかなりの部分を占めるようになっていた。

 しかし、2000年に結婚してからはさっぱり芝居を観なくなった。ひとつには経済的理由から。ひとたび芝居を観に行けば、チケット代に加えて、交通費、弁当代、筋書き(パンフレット)、その時々の土産物、あるいはイヤホンガイド……と、何かと出費がかさむ。また、誰かと一緒に観に行けば、芝居がハネてからお茶くらいはする(それも銀座で)。ある程度自由に金が使えた独身の頃はともかく、結婚してからはそうそう散財することもできなくなった。加えて、歳を取るに連れ、毎月のチケット争奪戦(注)も、電車で都内に出るのも、また、人が多く集まる場所も、次第に億劫になっていった。そうして、気がつけば10年以上が経ち、猿之助は代替わりし、勘三郎も團十郎も、もうこの目で見ることはできなくなってしまった。

 今日のように1日じゅうTVで歌舞伎座の話題を取り上げられると、ふと、また芝居を観てみたいと思う。だが、佐吉にとっての歌舞伎座は、地理的にも、心理的にも、もうすっかり遠い存在になってしまった。生活が変われば、得るものがある一方で必ず失うものもある。新しい生活は、それによって自分が何を得、何を失ったかを否応なく意識させる。失うものがあるのは仕方のないことだが、それに思いを致せば、やはりどこか寂しい。柄にもなくそんなことを思う佐吉なのだった。


注: 歌舞伎のチケットを取ること自体は決して難しくはない。が、土日休日の良い席を取ろうと思うと、それなりの争奪戦は避けられない。
関連記事

この記事に含まれるタグ : 歌舞伎 自分語り 

http://countrytranslator.blog.fc2.com/blog-entry-106.html edit

2013/04/02 23:58 | Comment (0) | Site Map | Home | Page Top
翻訳者ネットワーク「アメリア」

Comments

コメントを投稿する 記事 : 歌舞伎座は遠きにありて(自分語り注意)


  設定するとあとで修正や削除ができます。(任意)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。